リラクゼーション法を学んでチックをより良く対処する方法を練習してみよう!

リラックスの仕方を学ぶのがなぜ大事かというと、チックは患児の筋肉を緊張させ、身体全体を強ばらせます。これが患児をイライラさせたり、疲れさせたりすることがあります。ストレスを感じたり、イライラしたり、身体が疲れていたりすると、チックがひどくなる子供もいます。そこでリラックスの仕方を学べば、もしかしたらチックがひどくなるのを防ぐことができるかもしれません¹⁾。

リラクセーション法は、リラックス反応を誘導し、ストレス反応を低減させ、心身の回復機能を向上させる方法です。多くの文化圏で古来より様々なリラクセーション法が実施されてきましたが、近年、医学的にもその有効性が確認され、ストレスマネジメントの方法として活用されています。リラクセーション法は、ストレス反応の軽減において即効性があり、訓練を続けることで心身の自律機能が回復し、ストレス反応が起きにくい体へと変化させます。漸進的筋弛緩法とは、エドモンド・ジェイコブソンが開発した方法で、筋肉の緊張と弛緩を繰り返し行うことにより身体のリラックスを導く方法です。筋肉の完全な弛緩を誘導するために、各部位の筋肉を数秒間緊張させた後に弛緩することを繰り返します²⁾。

腹式呼吸は副交感神経系の活動を賦活させる効果があることが医学的にも確認されており²⁾、漸進的筋弛緩法は筋肉の緊張をほぐし、全身をリラックスさせることで心の緊張も解します。

チックは様々なことがきっかけで出てきたり悪化したりしてしまいます。緊張やイライラや不安、興奮や疲れなどもそのうちの一つです。様々なストレスを引き金にチックが悪化する場合、そのストレスをリラクゼーション法で軽減できれば、その結果チックが軽減、起こりにくくなる場合もあるのではと、チックの行動療法ではリラクゼーション法を行うことを勧めております。

様々なストレスに「反応」するのではなく、「対応」できるようになることが結果チックのコントロールをより可能にすると筆者は考えております。イライラやストレスを上手に対処することは、ある意味チックを上手に対処することと一緒なのかもしれないですね。

また、寝る前の漸進的筋弛緩法と腹式呼吸のセットは、寝付きが良くなったりと睡眠にも良い影響を与えている場合もあります。良質な睡眠がチックに良い影響を与えることも考えられるので興味のある方は是非試してみてください。

【 腹式呼吸のやり方 】

❶ 椅子や床に座りお腹に手を当てます、姿勢を正しながらも力を抜きリラックスする。

※目を閉じて呼吸を行うのも良いが、目を閉じるのが苦手なお子さんは、どこか一点を静かに見つめながら行う。

❷ 先ずはお腹を優しくへこませながら体にある空気をゆっくりと口から全て吐き出しましょう。

❸ 鼻から3~5秒くらいでゆっくりと自然にお腹を膨らませながら息を吸います。肩は動かさないようにしましょう。

※吸い込む空気を胸の下の方やお腹の方へ送り届けるイメージで、横隔膜をしっかり下げ深くゆっくり吸う

❹ 2秒くらい息をとめ、吸った時の倍くらいの時間(6~10秒くらい)をかけお腹をへこませながらできるだけゆ~っくり息を吐きます。

❷~❹を繰り返しましょう。

※ゆっくり息を吐くことが難しい場合は、口をすぼめながら息をゆっくり吐いてみましょう。

※お腹の中に風船があることを想像して、息を吸う時は風船が膨らむように、息を吐く時はその風船がしぼんでいくイメージで¹⁾、力を入れずにリラックス、当事者が心地良いと思える感覚を大事にしながら呼吸をしましょう。

※座った状態で腹式呼吸が上手にできない場合、ベットに仰向けに横になって練習してみましょう。お腹に小さな人形などをのせ、息を吸ったり吐いたりすると同時に人形を手を使わずに上下させる練習をしてみましょう。

※腹式呼吸を1回3~5分、朝昼晩など1日3回くらい練習するのも良いかもしれませんし、イライラなどストレスが溜まっている時に意識的にリラックス出来るよう練習するのもよいかもしれませんね。

【 漸進的筋弛緩法のやり方¹⁾ 】

漸進的筋弛緩法とは、筋肉を緩め心もリラックスさせる方法です。

例えば皆さんは、腕の筋肉をリラックスさせようとするとき、どのようなことをしますか?

もしかしたら、力を抜きぶら~んとただ腕を下ろすだけの人も多いのではないでしょうか?

それよりももっと筋肉をゆるめリラックスできる方法が漸進的筋弛緩法です。とても簡単にできるので下記の内容を参考にやってみましょう。

❶ 下記 ⓐ~ⓑ の筋肉群をそれぞれ80%くらいの力を入れギュッと緊張させます。

❷ その状態を5~7秒間保持ししましょう。

❸ 力を入れた筋肉をゆるめ20秒間リラックスします。

❶~❸をもう一度、合計2セット行いましょう。


各筋肉群の緊張は、次の手順で行うと良いでしょう。筋肉を緩めリラックスしている間は深呼吸(腹式呼吸)を行い更にリラックスしましょう。

腕と手のひら

両手のひらを親指を外に出して握る、両肘で自分の身体を締め付けるように両肘を自分の体側にぴったり押し付けます(脇を締める感じ)。

顔、首、肩

肩を耳に近づけるように持ち上げ、目を大きくパッチリ見開き、歯を軽く食いしばりながら叫ぶように口を横に引き、最後にあごを胸につけるように下に向けます。

脚(太ももから足首)、臀部(おしり)、足(くるぶしから下)

椅子などに座った状態で、脚を床から浮かせまっすぐピンッと伸ばします。つま先を自分の顔に向け、内ももにも力を入れしっかりと脚を閉じる。

胸と腹

ベッドや床に仰向けに寝そべります。大きな象が自分のお腹を踏んづけていくのを想像し、潰されないようにお腹と胸をギュッと硬くします。象が行ってしまうまで、上半身を硬くしておかなければいけません。

※下記内容を意識しながら漸進的筋弛緩法を行うとより効果的です。

・筋弛緩法を行う際、筋肉を緊張させるときはその筋肉がどのくらい硬いか?重いか?暖かいか?緊張するか?感じてみましょう。

・筋肉を緩めるときは、全ての力を抜いて、完全にリラックスした筋肉に意識を集中してみましょう。

・筋肉がどんどんリラックスしていくのはどんな感じですか?筋肉が緩んでいくときの身体の感覚だけに集中してください。

・手足に血液がジーンと流れていくような感じ、徐々に重力に引っ張られていくような感じ、筋肉がだんだんと深く完全にリラックスしていく気持ちのよさを味わってください。

・何もする必要はありません。ただリラックスしていく気持ちの良さに集中してください。

・筋肉を緩めている時、筋弛緩法を行う前と比べて今はどんな風か感じてみてください。

・筋肉がすっかりリラックスしている感じはどうですか?そのリラックスしている感覚だけに集中してください。

※チックを誘発するストレスを和らげるために、どのような時にリラクゼーション法(漸進的筋弛緩法や腹式呼吸)を行うのが効果的か?いつ練習するのがよいか?親子で考えてみましょう。上手にできるようになった子は、腹式呼吸や漸進的筋弛緩法を行っている間、全てのチックを出さない練習をしてみるのもチックを良くする練習に繋がったりするんですよ。

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参考文献

1) Woods, D. W., Piacentini, J., Chang, S., Deckersbach, T., Ginsburg, G. S., Peterson, A. L., Scahill, L. D., Walkup, J. T., Wilhelm, S.(2008) : Managing Tourette Syndrome: A behavioral intervention for children and adults. Oxford University Press. 金生由紀子,浅井逸郎監訳 : チックのための包括的行動的介入(CBIT)セラピストガイド. 丸善出版,p97,p105-108,p142,2018.

2) 文部科学省HP,第2章心のケア各論,2022年3月28日アクセス.