
■トゥレット症(トゥレット症候群)とは?
複数の運動チックと1つ以上の音声チックが1年以上継続した小児期に発症する神経発達症(発達障害)です。
※昔はトゥレット症候群と言われていましたが、米国精神医学会DSM-5よりトゥレット症と称します。
■チック発症の原因
チック症発症の原因は心の問題や親の育て方ではなく、大脳基底核、前頭葉、脳内神経回路、神経伝達物質の問題ともいわれていますが、明確な事は未だわかっていません。
しかしながら、トゥレット症(チック症)を悪化させる要因(チックトリガー)として、生活環境やストレス、心理的要因、その他の疾患・障害などがあげられます。
トゥレット症の主だった症状はチック症状であり、医学用語で不随意運動と言われていますが、現在は研究が進み半随意運動とも言われたりしています。
不随意運動とは自分の意志とは無関係に体が勝手に動いてしまう事をいうのですが、チック症状は自分の意識下で行われている場合もあります。年齢が低い当事者より、年令が高い当事者の方がその可能性が高くなりますが、必ずしも意識的である訳ではなく、無意識でチックが出てしまう方もおられます。
■何故チックをしたくなるのか?
医学的には解明されていませんが、当事者の感覚としてお答え致します。
基本的にチック症状とは身体のムズムズなどの違和感(前駆衝動)を解消する為の動作(発声も含む)。
〈 例 〉首を前後に振る首振りチックの場合、首の後ろ付け根辺りに違和感(前駆衝動は個々異なります)がある場合が多く、首を振る事でその違和感を意識的に解消しています。しかしその前駆衝動は無意識下で不意に訪れます。
この様な違和感(前駆衝動)が身体中あちこちに発生する場合もあり非常に煩わしいものです。
既に記載した通りチック症(トゥレット症)発症初期の小さなお子さんは、前駆衝動に駆られるまま、チック症状自体が軽度であればある程、反射的にほぼ無意識でチックをしている、または、チックが出てから気付く子が多い為、不随意運動といわれていたのでしょう。
※複雑運動チック、複雑音声チックは、強迫性障害などその他の症状も合わさってチックが出る場合もあり、この限りではありません。何れにしてもチック症状とは脳機能の問題により発症し、様々な要因によって増悪します。
■チックを我慢するとどうなるのか?
チック症状を我慢すると、当事者は徐々にストレスやフラストレーションが溜まり、頭の中が混乱、イライラしてくる場合も。チック症状を抑えるのに必死で、それ以外の事に意識を向ける事が難しくなるでしょう。
もう少し分かりやすくチック症状に似た感覚でご説明すると…↓
◉蚊に刺された時の痒みを前駆衝動とすれば、手で患部を掻く動作がチック症状。
◉瞬きをせず目をパッチリ開いていると徐々に眼球が乾燥してきます、眼球が乾燥してくると瞬きをしたくなります、この瞬きをしなさいという脳からの司令が無意識の前駆衝動、眼球の乾燥を防ぐ為に行う動作「まばたき」が云わばチック症状。
皆さんはこれらの衝動を我慢し続けた場合どうなりますか?トゥレット症(チック症)当事者は重症の場合これらの何十倍もの衝動に常に襲われています。
■トゥレット症(チック症)といっても千差万別
瞬きなどの単純運動チック、咳払いなどの単純音声チックは軽度の部類に入りますが、叫び声や奇声をあげる重度の音声チック、自分の体を叩くなどの自傷を伴う複雑運動チック、不謹慎な言葉を発してしまう汚言症などの複雑音声チックの症状は日常生活に大きな支障をきたします。
チック症状があっても何とか学校や仕事に行ける方、一方で字を書く事はおろか、食事をすることすらままならない、症状が酷く電車など公共の交通機関にも乗れず、生きるだけで精一杯の方。当事者それぞれ症状の度合いは全く異なる為、個々の対応も当然異なり、それぞれに合った生活環境、生活スタイルを整える必要があります。
◉暫定的(一過性)チック症・・・1年未満で症状が消える
◉持続性(慢性)チック症・・・1年以上症状が継続
◉トゥレット症・・・音声チック及び複数の運動チックが1年以上継続
◉難治性トゥレット症・・・十分な薬物療法を行ったものの、成人後も継続される重度のチック症状があるトゥレット症
■トゥレット症有病率
アメリカ神経学会によると子供のトゥレット症有病率は0.4%~1.5%
持続性チック症となると約2倍の0.9%~2.8%
米国精神医学会によると子供のトゥレット症発症率は3~8/1000人
成人のトゥレット症有病率は明確なデータはないものの、1000人に1人とも言われたりしています。
また、トゥレット症とADHDの併発率は40%~50%
強迫症の併発率は10%~50%
チック症状は統計からすると悪化や改善を繰り返しながら10歳~12歳頃をピークに成人期初め頃までに消失または軽快すると言われています。
しかしながら大人になってからも症状が継続する場合もあり、またチック症状の重症度によっては日常生活に大きな支障をきたす為、周囲の理解が欠かせません。