薬物療法に関する文献の紹介

薬物療法に関するご質問をいただくことがよくありますので、今回は国内におけるトゥレット症の第一人者である、東京大学医学部附属病院、金生医師のチックの治療において使用される薬に対してご説明された文献をご紹介させていただきます。治療の参考にしていただけたらと存じます。

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金生(2020a)はチックの薬物療法について以下のようにまとめています。

わが国で使用されていてチックに対してエビデンスのある薬物としては、抗精神病薬であるhaloperidol, pimozide, risperidone, aripiprazole がある、この他にチックに使用される抗精神病薬には、fluphenazine, tiapride, sulpiride, olanzapine, blonanserin が含まれる。

抗精神病薬のなかでもドパミンシステムスタビライザーである aripiprazole(エビリファイ)は、効果と副作用のバランスがよく、アメリカ食品医薬品局からトゥレット症の治療薬として承認されている。わが国の専門医の調査でも、チック症群に対して最もよく使用されており、risperidone がそれに次いでいた(金生,濱本, 2018)。Aripiprazole使用例としては、軽症に対しては、1~3mg/日から、中等症または重症に対しては、3~6mg/日から開始することが多く、9~12mgまでをめどに漸増する。

チックに対してエビデンスがある薬物としては、‪α₂受容体作動薬もあり、clonidine と guanfacine が含まれる。抗精神病薬に比べて、効果の出現に時間がかかり、効果がやや低いとされる。しかし、効果と副作用のバランスから、海外では抗精神病薬より推奨される傾向にある。実際には、抗精神病薬の効果が乏しかったり副作用が強かったりした場合に使用することが考えられる(金生, 2020b)。ADHDを併発するチック症群でより効果が期待される。これらのようなエビデンスはないが、わが国で軽症な場合に使用されることのある薬物としては、漢方薬(抑肝散または抑肝散加陳皮半夏)もある。なお、わが国ではいずれの薬物もチックに対する保険適応はない。

【引用文献】

・金生由紀子「チック症群」『児童・青年期の精神疾患治療ハンドブック』35巻、201-206頁、星和書店、2020a.

・金生由紀子:チック症(チック障害). 福井次夫, 高木誠, 小室一成編:今日の治療方針2020版ー私はこう治療しているー, 医学書院, 東京, p.1352-1353, 2020b.

・金生由紀子, 濱本優:チック症および強迫症の薬物療法. 中村和彦編:児童・青年期精神疾患の薬物治療ガイドライン, じほう, 東京, p.89-94. 2018.