音声チックの自己対処法【呼吸法マニュアル/2021年版】

当会では、これまで多くの方にチック症状への認知行動療法(CBIT/ハビットリバーサル・呼吸法・ERP)を指導してまいりました。

今回は、これまでのセッションの内容をまとめ、効果のあった音声チックに対する呼吸法の基本的なやり方をご紹介いたします。

過去にいくつか呼吸法の投稿をしてまいりましたが、日々より良い方法を研究しておりますので、最新の投稿をご参考にしていただければ幸いです。

また、普段セッションで個々にお話していることを文章化しておりますので、お読みいただいただけで、どの程度呼吸法を身に付けられるかは、現時点で定かではありません。しかしながら、少しでもどなたかのお役に立てればと思い投稿させていただいた次第であります。

※音声チックへの呼吸法の効果は、個々に異なり、必ず効果があるとは限りません。予めご理解の上、無理のない範囲でトレーニングを行ってください。

音声チックの自己対処法【呼吸法マニュアル/2021年版】

CBITのプログラムでは、機能分析&環境調整、アウェアネストレーニングを行ってから呼吸法の練習を開始いたします。必ずこちらをしっかりとご確認の上、以下のSTEPへお進みください。

STEP ❶ ターゲットの音声チックに対する拮抗反応を選択

①口から息を吐きながら音(声)が出る音声チックの場合、口から息を吸い、鼻から息を吐く拮抗反応。

例:「あっ!!」「反復・反響言語」「汚言症」「豚鼻」「鼻すすり」などなど

※豚鼻や鼻すすりは鼻から息を吸い音を出すため、鼻から息を吸わない呼吸が拮抗反応になります。

②鼻から息を吐きながら音(声)が出る音声チックの場合、鼻から息を吸い、口から息を吐きましょう。

例:「鼻息のチック」「口を閉じながらの咳チック」「鼻から抜ける、んっんっ」などなど

Point1その他の音声チックも同様の考え方で、チックが同時に出来ない動作、起こる時の動作やチックが完了する時の動作と逆の動作を意識してみましょう。

Point2ターゲットにするチックは基本1つずつ、1つのチックがある程度軽減してから次のターゲットに対してのトレーニングを開始しましょう。

Point3上記の拮抗反応は基本的な考え方であり、必ずしもこれらが絶対ではありません。鼻炎の方は鼻からの吸気が難しいでしょう、そのような時は口からの吸気を選択することもあります。チックを分析し当事者の感覚も考慮しながら、適切な拮抗反応を選択します。

STEP ❷ 拮抗反応を使いながら4-2-8呼吸法(深呼吸/腹式呼吸)を練習

①椅子や床に座り、姿勢を正しながらもリラックスする。

Point4本来拮抗反応や呼吸法は、日常を止めず行えるようにならなければいけません。しかし初めの頃はそれが難しい時もあるかもしれません。そのような場合は、呼吸法だけに集中し、正しい呼吸ができるようになってから日常生活に取り入れてみましょう。

《例》TVを見ながら、YouTubeを見ながら、ゲームをしながら、勉強をしながら.etc.呼吸法を行う。

②先ずは体にある空気を、お腹を凹ませながらゆっくりと全部吐き出しましょう。

③選択した拮抗反応を使いながら、深呼吸(腹式呼吸)を開始します。

※今回は鼻から息を吐きながら音(声)を出す音声チックに対しての拮抗反応を例に記載いたします。

④鼻からゆっくりと4秒かけて息を吸い、2秒間息をとめ、口から8秒かけてゆっくりと、少しずつ息を吐く。

Point5音声チックのタイプや、お子様の状態によって、口から吸って鼻から吐く、鼻から吸って鼻から吐く、口から吸って口から吐く、など拮抗反応を選択しましょう。

※小さなお子様の場合、長く呼吸をするのが難しい場合もあるため、初めは鼻から3秒吸って2秒間息をとめ、口から6秒吐くでもOK、少しずつ長くゆっくり呼吸ができるよう練習しましょう。

Point6大人や体格が大人に近い方は、当然肺活量も異なるため、5秒息を吸って2秒間息をとめ、10秒で吐く全体的により長い呼吸を行いましょう。この呼吸はリラックス効果も与えるため、吸気の倍くらいの時間をかけた呼気にすることがポイントです。

Point7口からゆっくり息を吐くや、吸うことが難しい場合は、口をすぼめながら細いストローで吸ったり吐いたりするイメージで呼吸を練習してみましょう。

⑤息を吐くと同時に少しずつお腹が凹んでいき、息を吸う時は胃のあたりを中心に、上半身全体を自然にしっかりと膨らませ十分に息を吸う。

Point8しっかり息を吸い込むためには、しっかりと息を吐く必要があります。しかし無理せず無駄な力を入れず自然に呼吸を行いましょう。

Point9肩は上下させず、吸い込む息を肺の底や、お腹の方へ送り届けるよう、横隔膜を押し下げるイメージで息を吸う(横隔膜呼吸)。

Point10息を吐く時は風船がしぼんでいくように、息を吸う時は、風船が膨らむように、自分の上半身をイメージする。お腹や胸だけでなく、肋骨、背中の方まで上半身全体を膨らますイメージで呼吸を行う。

Point11鼻や喉元に吸気を感じながら力を入れ過ぎず、より自然に、当事者が心地良いと思える感覚を大事にしながら呼吸を続ける。

お腹は膨らませず、胸を中心に膨らませる呼吸の方が、前駆衝動が鎮まりやすいという当事者の方もいます。

STEP ❸ 拮抗反応と4-2-8(5-2-10)呼吸法を使い音声チックの前駆衝動を鎮める

この呼吸法を1日30分、音声チックを出したくなったら、音声チックを出さずに呼吸法を行い、ムズムズ(前駆衝動)を鎮めるトレーニングを毎日行う。

※お子様のトレーニングは、お母様お父様がしっかりとサポートをしながら行ってください。

Point12前駆衝動は10分以上なかなか鎮まらない可能性もあります。前駆衝動がしっかり鎮まるまで、もしくは明らかに軽減するまで、音声チックを出さずに粘り強く呼吸法を継続しましょう。

Point13前駆衝動がなかなか鎮まらない場合、当事者に前駆衝動の強さを、10段階で数分ごとに評価してもらいながら呼吸法を継続しましょう。

《例》呼吸開始時の前駆衝動の強さ8/10→呼吸法3分後6/10→呼吸法6分後4/10→呼吸法10分後1/10→呼吸法15分後0/10

Point14呼吸法中に音声チックが漏れてしまう場合、音声チックが出そうになったら、すかさず拮抗反応を使いましょう。

《例》口から息を吐いていたら、鼻からの音声チックが漏れてきた→音声チックが出そうになったら直ぐに拮抗反応(この場合は鼻からの吸気)を使い、ターゲットの音声チックをブロック、上手くブロック出来たら基本の呼吸に戻り、再び前駆衝動を鎮める呼吸を行いましょう。

※日々呼吸法を練習していると、呼吸法が上手になり、徐々に前駆衝動が早く鎮まりやすくなり、前駆衝動を感じる頻度も軽減していきます。

Point15音声チックの種類により異なりますが、トレーニングを継続することにより、1分以内に前駆衝動を鎮められるようになる子が多いですが、前駆衝動が直ぐに鎮まったとしても、呼吸法は最低でも1分は継続しましょう。

Point16最初は音声チックが比較的穏やかな状況で練習し、上手に出来るようになってきたら、少しずつ音声チックが出やすい状況にハードルを上げていきましょう。

Point17トレーニングは決して楽なものではありません、音声チックの前駆衝動を上手に鎮めることができたり、音声チックを呼吸法でコントロール出来た時は、しっかりと大袈裟なくらいお子様を褒めてあげてください。トレーニングへのモチベーションを維持することも重要なポイントです。

※呼吸法を行っていると、あくびが出たり、眠くなってしまう事がよくありますが、それらは悪い事ではありません。寝付きが悪いお子様は、就寝時に呼吸法を練習する事で、入眠が改善される場合もあります。

STEP ❹ 日常的に呼吸法を使い音声チックをコントロールする

呼吸法が上手に出来るようになったら、一日を通して音声チックが出そうになったら呼吸法を行う。または、音声チックが出やすい状況の前やイライラしやすい時、不安が強い時など意識的に呼吸法を行いましょう。

※音声チックがなく運動チックが主な方も、この呼吸がチックに良い影響を与える可能性があります。その際は、鼻から吸って口から吐く4-2-8(大人は5-2-10)のカウントで呼吸を練習してみましょう。

Point18拮抗反応や呼吸のカウントは、基本であり、必ずしもこの限りではありません、当事者の感覚も大切にした、より良いリズム、呼吸を整え自分自信を整えるイメージで行ってください。

※大人の当事者の音声チック、特に複雑音声チックを改善させる為には、よりハードなトレーニングが必要なこともあります。

STEP ❺ 息止めの練習

4-2-8(5-2-10)呼吸法が上手に出来るようになったら、お子様は4-4-8(大人は5-5-10)の少し息を止める時間を長くした呼吸法も練習してみましょう。

Point19息止めは拮抗反応のひとつだと私は考えています。前駆衝動の波は一定ではなく、とても強い時があります。4-2-8(5-2-10)の呼吸法ではなかなか前駆衝動が鎮まらない時、息止めの拮抗反応をより長く呼吸に入れることで、音声チックをブロックしやすくなる可能性があります。

Point20当事者によっては、20秒や30秒とより長く息を止める呼吸法を数回繰り返す事で、前駆衝動を鎮められる場合もあります、完全に鎮められなくとも、音声チックを制御、コントロールしやすくなる場合があります。

※長く息を止める呼吸法を行う際は、ゆっくり息を吐くことが難しくなるため、4-20-4(5-30-5)などのカウント、もっと短く吐いても良いかもしれません。息止めの呼吸は、1回1回息を整えながら繰り返すなど個々に工夫してください。

《トレーニング例》4-2-8(5-2-10)呼吸法を1日10分×3回(朝昼晩など)、4-4-8(5-5-10)を1日5分(約20呼吸)、4-20-4(5-30-5)を5分(約10呼吸)、一日の中で計5回それぞれの呼吸法で、音声チックをコントロールする練習なども良いかもしれません。

※苦しくなるほど、倒れそうになるほど、限界まで息を止めたりすることは絶対におやめください。

STEP ❻ その他の呼吸法

4-2-8(5-2-10)だけではなく、お勧めできる呼吸法のカウントとして、5-2-5や4-7-8、呼気の後にも息を止める4-4-4-4(4秒吸って→4秒止めて→4秒吐く→4秒止める→4秒吸う)、息止めを入れない4-8(リラクセーション法)や、同カウントで吸って吐いてを繰り返す、4-4(5-5)呼吸法などもあります。

呼吸法についても様々な方法を調べておりますが、絶対これが正解というものではないのかもしれません。

何故なら、チックは様々な要因で発症悪化しているとすれば、個々それぞれのチックへの対処法も微妙に異なるでしょう。

4-2-8(5-2-10) の基本の呼吸法をマスターしたら、当事者それぞれ状況に適した自分なりの呼吸法を選択、ブラッシュアップし、複数の呼吸法を日常に取り入れてみるのも良いかもしれません。

SUMMARY

音声チックに限らず運動チックも含め、チックは出せば出すほど前駆衝動が強いものとなり、悪化または習慣化しやすくなってしまう可能性があります。

そのことを当事者が正しく理解し、呼吸法や拮抗反応を使い、先ずはチックをブロック(制御)する。

そしてチックという動作を行わずに、前駆衝動を鎮めることを常に意識する。

これが出来ればチックは徐々に軽減する可能性があり、穏やかな状態を維持、つまりチックを管理コントロールすることが可能になります。

チックを完全にゼロにするという意味ではなく、チックはあるものの生活に支障のないレベルでコントロールする。

しかし、それが簡単ではない場合もあるため当事者は苦しんでいます。もともとの衝動が強い方は、薬物療法等様々な治療を行いながら複合的に対処することが大切です。

※今回まとめた音声チックの自己対処法・呼吸法マニュアルは、2021年版として記載いたしましたが、今後も臨床を継続し、より良い方法が判明しましたら、2022年版、2023年版と更新して行けたらと考えております。

※この方法は100%音声チックに対して効果があるとは限りません。そして呼吸法は音声チックを完治させるものではなく、管理コントロール、悪化を防ぐためのスキルだと私は考えています。

※ハビットリバーサル(CBIT)や呼吸法が不向きな方もおられます、当事者が望まないにも関わらず、トレーニングを強要すること等ないようお願い申し上げます。