チック症トゥレット症患者に行われるCBIT(シービット)とは?

行動療法/認知行動療法

CBIT=Comprehensive Behavioral Intervention for Tics の頭文字であり、和訳するとチックのための包括的行動的介入と言います。トゥレット症(トゥレット症候群)や持続性(慢性)チック症の方に有効な認知行動療法の治療パッケージです。

どの様なことを行うのか非常に簡単にご説明すると、チックが起こりやすい悪化しやすい状況を分析し、チックが起こりにくくなるよう外的内的要因に対して環境調整を行います。そして、ハビットリバーサルという手法を使いチックをコントロールする方法を学び、チックの軽減を図るトレーニングを行います。

以下に詳しく記載しておりますが、CBITをより詳しく学びたい、無料個人セッション等をご希望の方はリンク先よりお申し込みください。

CBITはハビットリバーサルトレーニングを中心に②リラクゼーション法、③機能に基づく介入といった、行動療法の様々な要素が、チックに対する心理教育と組み合わされています。

重要な点として、この治療プログラムの目的は、チック症トゥレット症を治癒させることではなく、チック症状に対して有効に対処するスキルを患者に教えることです。

有効に対処するスキルを身に付けることで、チックの悪化を防ぎ、また、悪化してしまったチックを改善出来る可能性があります。

❶ ハビットリバーサルトレーニング(以下HRT)

HRT(Habit Reversal Training)とは、以下3つの要素から成り立ち、ターゲットとなるチック症状それぞれに対して全て実行されます。

⑴ アウェアネストレーニング(気づきの練習)←詳細はクリック

患者にいつチックが起こるか、あるいは、起こりそうになるかを気づかせること 。

チックが起こる前には、実はムズムズやモヤモヤなどの身体の違和感(前駆衝動)が存在し、それらをキャッチする為のトレーニング(Catch the Tic )です。

⑵ 拮抗反応のトレーニング

患者にチックと身体的に両立しない動作をするように教えること。

HRTの中核は拮抗反応のトレーニングであり、拮抗反応とは、今まさに起ころうとしているチックをブロック(制御)し、その前駆衝動を鎮め、チックを起こさせない動作の事をいいます。

しかしながら、拮抗反応がどのようにして、HRTにおける変化に影響しているのかは、明瞭ではありません。

二つの仮説があり、一つはHRTは、単純にチックと大脳基底核(行動制御を補助する脳の深部の構造)の回路において顕在化を競合しているとの考えがあります。言い換えれば、チックがまさに起ころうとしている時に、意図的に送り出された拮抗反応をするための信号が、基底核がチックを起こすのを妨げるということです。

二つ目の仮説は、拮抗反応が患者に前駆衝動への慣れを起こさせるために、その手順が効果を生み出すというものです。

⑶ ソーシャルサポート(典型的には患者の親)

患者が拮抗反応を正確にできるよう援助し、チックが起こったことに気づいていないときに、拮抗反応を使うよう患者を促すこと。

患者が拮抗反応を使い、ターゲットのチックを起こさず、上手にその前駆衝動を鎮めることができた際に、患者を賞賛すること。

リラクゼーション法

チックは当事者の筋肉を緊張させ、体全体を強ばらせます。その結果当事者をイライラさせたり、疲れさせたりすることがあります。ストレスを感じたり、イライラしたり、疲れていたりすると、チックがひどくなる方もいます。そこで、リラックスの仕方を学べば、もしかしたらチックがひどくなるのを防ぐことができるかもしれません。

⑴腹式呼吸(深呼吸)

・鼻からゆっくりと息を吸い、吸った時の倍くらいの時間をかけて口からゆっくりと息を吐く。

空気がいっぱいになると大きくなり、空気が出ていくと収縮する風船のように、ゆっくりと深く深く深呼吸。

胸だけの浅い呼吸ではなく、息を吸う時はお腹を膨らまし、息を吐く時はお腹を凹ます腹式呼吸を意識する。

呼吸のリラックスはとにかくゆっくりと、そして普段の呼吸よりも深く長く呼吸を行ってください。

⑵漸進的筋弛緩法←詳細はクリック

⒈「腕と手」⒉「脚(太ももから足首、臀部、足(くるぶしから下)」⒊「胸と腹」⒋「顔、首、肩」、1~4それぞれの筋肉群を5~7秒間7~8割の力で緊張させ、その後20秒間脱力しリラックスさせる、これらを2セットずつ繰り返し、それぞれの動きの後にリラックスのための呼吸法を取り入れる。

漸進的筋弛緩法はネットで検索すると様々な方法が見つかります、そちらも合わせて参考にしてください。

機能分析

どのような時にチックが出ているのか?悪化しているか?チックが持続されているのか?などチック症状の悪化因子、チックトリガー(チックの引き金)を分析する。HRTに入る前に、当事者の負担となっている事は対処する(環境調整)。また、機能分析より得られた情報をHRTにも活かします。

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ここまでCBIT(シービット)について大まかにご説明いたしましたが、これだけではまだわからない方も多いと思います。

実際にどのように行動的介入が行われ、チック症状が改善していくのか、当会でのセッションを例として簡単にご説明いたします。

┈┈┈┈┈┈┈┈ 《セッション例 》 ┈┈┈┈┈┈┈┈

【 クライエント】

持続性(慢性)チック症、男の子(10歳)の母親、息子の上下の首(頭)振りチックがなかなか治まらず、チック症状への認知行動療法(CBIT)を当会に依頼。

【 インテーク面接 】

先ずは、初回面接にて、お母様にお子様の現病歴を詳しくお伺いし、チック症状への認知行動療法(CBIT)についてご説明いたします。

今回は分かりやすく、ターゲットのチック症状は首振りチックのみにいたします。

STEP ① 機能分析

先ず初めに行うことは、機能分析、どのような時に首振りチックが起こるのか?悪化するのか?またはでていないのか?詳しくお話をお伺いします。

お話の結果、TVを見ている時、ゲームをしている時、勉強をしている時、そしてチックを出してはいけないと思うとチックが止まらなくなってしまうとのこと。

よくよくお子様にお話を伺ってみると、学校で首振りチックが出てしまうと、クラスメイトから変な目でみられているのではないかと悩んでいる…できるだけ学校ではチックを出したくないのだが、出さないように意識すると、逆に首振りチックが止まらなくなってしまうとのこと。

この様な場合は、ハビットリバーサルトレーニングに入る前に、お子様の問題をできる限り解決し、ストレスを減らしてあげましょう。

つまり、お子様の同意の上、担任の先生などから学校のクラスメイトに事情を説明し、首振りチックに対しての理解を求める。または、症状が酷くなった時には、保健室などで休ませてもらう。その他、必要によって別室授業なども考えられるかもしれません。

環境調整の結果、お子様の学校においてのチックに対する不安やストレスが取り除かれれば、その後のトレーニングの成果も上がりやすくなります。

STEP ② アウェアネストレーニング

実は、チックが無意識で勝手に出てしまう子もいれば、意識的にチックを出している子もいます。

その違いは、前駆衝動への気づきがあるかどうかです。前駆衝動とはチックが起こる前の身体の違和感のことをいい、ムズムズやソワソワ、ウズウズやモヤモヤ、人によって、チックの種類によって、その感覚は異なり、なんとも満たされない他とは違う不快感のことをいいます。

先ずは、ターゲットにするチック症状の前駆衝動への気づきがあるかどうかの確認、なければ気づけるようになるためのアウェアネストレーニングトレーニングを行います。

つまりアウェアネストレーニングとは、ターゲットとするチックが無意識で出ているのか?意識的に出しているのか?これらを確認するために行われ、チックを確実に意識的なものにするためのトレーニングです。

上下の首振りチックの場合、前駆衝動は首の後ろあたりに発生することが多いです。

アウェアネストレーニングを行っても十分な気付きが得られない場合もあります。その場合はHRTは中止します。年齢が上がると共に気付きが良くなる可能性もあります。

STEP ③ 拮抗反応の選択

アウェアネストレーニングにより、首振りチックの前駆衝動への気づきがしっかりとあることが確認できた、またはトレーニングにより無意識のチックが意識的なものに変わった場合、拮抗反応を選択し、いよいよ本格的にハビットリバーサルトレーニングを開始します。

上下の首(頭)振りチックの基本的な拮抗反応は、アゴを胸の方に下げて固定し、首の筋肉をやや緊張させ、深呼吸をします。

拮抗反応の考え方には大きくわけて下記3つのポイントがあり、この3つのポイントを踏まえ、個々に適したものを考案します。

  1. チックと同時にできない競合する動作
  2. 拮抗反応は最低1分、または前駆衝動がなくなるか、明らかに減少するまで持続できる動作
  3. 拮抗反応はチックよりも目立たず、社会的に目立ちにくい動作

拮抗反応はこれが絶対というものではなく、3つのポイントを踏まえ、患者各々に適したものを考案する。

STEP ④ 拮抗反応トレーニング

適切な拮抗反応が見つかったら、拮抗反応トレーニングを開始します。

首振りチックの前駆衝動を感じたら、チックを出さずに、すぐさま考案した拮抗反応(アゴを胸の方に下げて固定し、首の筋肉を緊張させ、深呼吸)の動作を始めます。

そして、首振りチックの前駆衝動がなくなるか、明らかに減少するまで拮抗反応を継続します。

患者によっては前駆衝動がなくなるまで、10分以上の時間を要する場合もありますが、1分とかからない場合もあります

仮に30秒で前駆衝動がなくなったとしても、残り30秒、トータル1分間は拮抗反応を続けましょう。

トレーニング開始直後は前駆衝動が鎮まりにくいかもしれませんが、回数を重ねる度に前駆衝動を早く対処できるようになるでしょう。

何回か上手に首振りチックを出さずに、その前駆衝動を拮抗反応を使うことによって鎮めることができたらいよいよ本格的なトレーニングの開始です。

首振りチックの前駆衝動を感じる度拮抗反応を使い、首振りチックを出さずにその前駆衝動を鎮めるトレーニングを24時間毎日(最低でも1週間)行ってください。

仮に1日100回首振りチックが出るとしたら、100回全てに拮抗反応を使い全てのチックを出さないようトレーニングを頑張りましょう。

毎日30分間トレーニングが正しく出来ているか、親子でモニタリングする時間を設けましょう。

拮抗反応トレーニングを毎日続けチックを出す回数を減らせていると、前駆衝動を感じる頻度が徐々に軽減していき、その結果チックをやりてくなる頻度、その大きさも軽減していきます。

トレーニングの期間がどのくらい必要かは個々に異なり、一つのチック症状に対し、1週間で十分な効果を発揮される方もおられれば、1ヶ月以上のトレーニングが必要な場合もあります。

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CBITはトレーニング的要素が強いため、その効果は個々に異なり、改善度合いも様々です。

ホームワークの内容も、患者それぞれに合った適切なレベルを選択し、トレーニングのモチベーションを維持していくことも重要なポイントです。

チック症状への認知行動療法(CBIT)は、患者のセッションやトレーニングへのモチベーションを高めるために、報酬プログラムを利用することがあります。

報酬プログラムの目的は、セッションへの出席や、セッション中の活動への参加、ホームワークの実施、治療に対する全般的なコンプライアンスを高めるために、患者をやる気にさせることにあります。

報酬プログラムを実施する際、一日決められたホームワークを実行出来たら1ポイントを与え、50ポイントまたは100ポイント溜まると、何らかのご褒美を貰えるなどというシステムにすると行いやすいかもしれません。また、報酬は、ホームワークの結果に対して与えるものではなく、ホームワークを実行したという行動に対して与えてください。つまり、ホームワークの内容が100点でなくとも、ホームワークを頑張ったという努力を褒めてあげましょう。

当会のオンラインセッション(Zoom)は、1セッション約50分、初めは1週間おき、その後は個々のトレーニングの進捗状況、症状の改善度合いにより、2・3週間後とセッションの間隔を調整いたします。

チック症状への行動療法/認知行動療法(ハビットリバーサル/CBIT・呼吸法・ERP)をご希望の方は、下記リンクをご覧頂き、必要事項をご記載の上お申し込みください。

行動療法は薬物療法と併用することも、単独で実施することも可能です。

トゥレット症当事者は強迫症(強迫性障害)を併発していることも多く、その場合は強迫症状への認知行動療法であるERP(Exposure and Response Prevention/暴露反応妨害法)の考え方も併用する。更に様々な呼吸法を駆使し、チック症状(特に音声チック)を管理コントロール出来るようになる事も大切なポイントです。

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行動療法/認知行動療法はハビットリバーサル/CBITだけではありません。チックに対して効果的なもうひとつの行動療法/認知行動療法『ERP』とは?

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CBITには以下2つの大規模なRCT(Randomized Controlled Trial/ランダム化比較試験)が行われており、CBITが9歳以上のお子様及び大人の当事者の約40~50%に効果がある事が立証されています。

CBITが9歳未満のお子様には効果がないという訳ではありません、またチックが無意識で起こる場合CBITでの改善は難しくなります。

・研究対象者が126名の子供(9歳~17歳/平均年齢11.7歳)

John Piacentini, PhD; Douglas W. Woods, PhD; Lawrence Scahill, PhD, MSN; et al.(2010) Behavior Therapy for Children With Tourette DisorderA Randomized Controlled Trial. JAMA-Journal of the American Medical Association,303(19):1929-1937.

・研究対象者が122名の大人(16歳~69歳/平均年齢31.6歳)

Sabine Wilhelm, PhD; Alan L. Peterson, PhD; John Piacentini, PhD; et al. (2012) Randomized Trial of Behavior Therapy for Adults With Tourette Syndrome. Arch Gen Psychiatry,69(8):795-803.

JAMA(Journal of the American Medical Association/米国医師会雑誌)

【参考文献】Douglas W. Woods, John C. Piacentini, Susanna W. Chang; et al. (2008)Managing Tourette Syndrome: A Behavioral Intervention for Children and Adults. Oxford University Press.(金生由紀子・浅井逸郎 監訳)(2018)チックのための包括的行動的介入(CBIT)セラピストガイドートゥレット症とのつきあい方ー丸善出版